挫折・失敗に向き合って立ち直る、科学的な方法を知る【久世浩司さんのレジリエンス入門:第四回】

お届けしてきた久世浩司さんによる挫折がテーマの連載も、今回で最終回を迎えました。今回はレジリエンスにとって大切なサポーターの存在と、「感謝」がテーマとなっています。

▼久世浩司さんのレジリエンス入門連載はこちらから

挫折をしない人は、一人で悩まない

失敗や困難に直面して、気持ちが落ち込んで心が折れそうになったときの対処法は、このシリーズ記事でも紹介してきたようにさまざまなものがありますが、忘れてはならないのが「心の支えとなる人」の存在です。

それは皆さんの会社の上司や同僚かもしれません。仲の良い同期がいれば、宝物です。心を許して何でも話すことができるからです。親友や家族を頼りにしている人もいるでしょう。トラブルや失敗などをして気持ちが凹んだときや、将来が心配になったときこそ、信頼できる人に悩みを共有し、相談・助言を受けるべきです。

ストレス耐性をもち逆境を乗り越える「レジリエンス」を身につけるためには、自分に助力の手を差し伸べてくれる「サポーター」の存在が大切です。心が折れないタフな人ほど、周りからの社会的支援を積極的に得ようとするのです。

他人を頼るすすめ 「支援希求」

人の助けを得ることを「支援希求」といいますが、昨今では他人を頼ることができない「助けられ下手」な人が増えています。その背景には、パソコンを使った仕事など、職場で孤立化してしまいがちな職務が増えていることがあります。とくにリモートワークが進むと、自由に仕事ができる反面、人とリアルに接する機会が減ってしまいます。

契約社員やパート社員などが会社で増えていることももうひとつの要因です。正規社員と非正規の社員の間に心理的なギャップが生じてしまうからです。若手とベテラン社員との世代間ギャップも、職場での人のつながりが“過疎化”する原因となります。

より大きな原因は、「人に相談することが恥ずかしい」という感情です。自分の弱みを人に知られたくないと思う人がいます。また、個人的な悩みを相談すると、相手に迷惑になるのではと懸念する人もいます。

私も人に相談することが苦手なタイプでした。頑張って努力すれば、どんな問題でも自分一人で解決できると思い込んでいたのです。

ところが、仕事での逆境に直面し、精神的に深く落ち込んだときに、誰にも相談できずに一人で苦しむ時期が続きました。そのときは家族に打ち明けることで鬱になることを何とか防ぐことができたのですが、心の支えとなるサポーターの大切さを身にしみて感じた経験でした。

その経験をしてから、以前は仕事の問題を家に持ち帰らない主義を通していたのですが、その後は何か問題や悩みがあるとすぐに妻に話すように変わりました。家族は私の大切な「サポーター」となっています。

ソーシャルサポートのある人は失敗に負けない

レジリエンスの研究では、精神的な落ち込みからの立ち直りが早い人ほど、周りに心の支えとなる人の存在があったことがわかっています。これを「社会的支援(ソーシャルサポート)」と言います。苦しいときこそ、誰かの助力が必要となるのです。

そして、失敗に負けない人ほど、自分のサポーターを持ち、「支援希求」を発揮することができるのです。苦しい時に人を頼りにできるのは、弱さではありません。その人の心の強さの秘訣なのです。

私は中学・高校とサッカーをプレイしていました。サッカーでは「フィールド上には11人の選手がいるが、12人目の選手であるサポーターの励ましが、勝利のための力となる」といわれています。実際、サポーターに応援されるホームでの勝率は、敵地のアウェイよりも高いのです。私のチームも自分の学校で行った試合では、同級生の応援もあって、勇気を持って試合に望めました。

このサポーターを見出し、普段から質の高い人間関係を持つことができるかどうかが、逆境に直面したときの鍵となります。

サポーターは職場での上司や同僚に限りません。学生時代からの親友や大学の恩師、家族やきょうだい、信頼できるカウンセラーなども含まれます。

「助けを求められても迷惑に感じるのではないか」と思う人もいるでしょう。しかしながら、助けを求められた相手は、頼りにされたことをむしろ誇りに感じると思います。

私は経験上、いざというときに相談できるサポーターを5人もつことをすすめています。悩みを相談できる人だけではなく、自分にアドバイスをくれる助言者や叱咤激励してくれる恩師や先輩、一緒にいるだけでほっとして安心できる人なども皆さんのサポーターリストに加えることを推薦します。

そして支援希求を発揮して「助けられ上手」になりましょう。

感謝に厚い人は、心が折れにくい

折れない心を持つ最後の方法が「感謝」の感情を高めることです。

研究によると、普段から感謝をよくする人は、ストレス耐性があることがわかっています。一方で、「自分はついていない」と自己のマイナス面ばかりを気にする人は、感謝することが苦手で、ストレスに弱い傾向があります。

心理学では、感謝の習慣をもつことで、心・感情・体にさまざまなメリットがあることがわかっています。ある研究結果では、感謝する時に体内で生成される「オキシトシン(幸せホルモン)」の影響で、免疫力が強化されるとの報告もありました。感謝の感情が豊かな人は、思考・感情・身体がとても健康的なのです。

感謝には、不安や憂うつ感といったネガティブな感情を帳消しにする力があります。「感謝」が豊かだと前向きな気持ちを保つことができるのです。

感謝したことを思い出して日記や手紙を書いてみよう

感謝の気持ちというのは日常の中でつい忘れがちです。住む家があって、仕事がある、健康で家族がいる。当たり前じゃないかと言われることを当たり前と思わないで、自分が恵まれていることに気づくことで感謝は生まれます。恵まれていることにフォーカスする視点は、感謝の習慣によって養うことができます。

1)感謝日記を書く

1日の終わりに感謝したことを思い出し、日記形式で書き出します。できれば「なぜいいことが起きたのか」についても考えてみます。考えるだけではなく書くことで感謝の気持ちが持続します。

その1日には、自分ではどうしようもできない問題も起こります。そんなときは、信頼できる他者の支援なしに乗り切ることができません。

自分にできること・できないことを理解する自己認識をもち、謙虚さも備えている人は、自分一人の力ですべての問題を解決しようとは考えません。そうした人は、周りの助けを積極的に求める「支援希求力」をもっています。

あなたが大変な状況にあったとき、心の支えとなってくれた人。気分が落ち込んでいたとき、そばにいてくれるだけで安心できた人。厳しく叱陀しつつも、自分を励ましてくれた人。自分のサポーターとして日記で記しましょう。

サポーターが明らかになったら、次に、その相手に感謝の言葉を書き込みます。

そして、「今日もいい1日だった」と前向きな気持ちで眠りにつくことで、翌朝も幸せな気分で目覚めて前向きに1日をスタートできます。

2)感謝の手紙を書く

サポーターはいわば恩人です。そんなサポーターに「感謝の手紙」を書きましょう。手紙でなくても、メールやハガキでも構いません。感謝の気持ちを伝えると、相手に喜ばれるだけでなく、自分の胸の内にも感謝の感情が広がります。 

親も大事なサポ―ターです。「父の日」や「母の日」に感謝の念を伝えるといいでしょう。あるいは、誕生日をきっかけとしてもいいでしょう。私は旅行先で子供達と一緒に父母に手紙を書くことを習慣にしています。手紙で感謝の気持ちを伝えることを恥ずかしく感じる人もいるでしょう。私もその一人です。

感謝の手紙は、たとえ相手に送らなくても、書くだけで感謝の感情が増幅する効果があることがわかっています。実際に送ることにためらいがあるのなら、送付せずに机の中に入れておくだけでもいいのです。

心が敏感な人ほど、レジリエンスを持てば人生が豊かになる

これまで4回にわたり、辛い挫折や失敗に直面しても、精神的に立ち直る科学的な方法としてのレジリエンスの身につけ方について解説してきました。

新型コロナの影響はまだ続いています。とくに心が敏感な人ほど、ストレスを感じることも多いかと思います。そんなとき、気持ちが暗くなり落ち込むこともあるでしょう。

ただ、気持ちが落ち込むのは自然な心の動きです。自分の心に素直で感受性が高いから、気持ちが上下するのです。無理に心に蓋をして、我慢すると、感情が麻痺してしまいます。辛いことを感じにくくなるかもしれませんが、幸せも感じにくくなってしまうのです。

心が落ち込んでも、レジリエンスを身につければ、すぐに立ち直ることができます。挫折しそうになっても再起することができれば問題ありません。

ぜひ皆さんには、自分がもともともっているレジリエンスを引き出して、困難時にはストレスにしなやかに賢く対応し、平常時には暮らしの中での幸せを味わえる、豊かな人生を送っていただきたいと心から願っています。

サイエンスシフトでは、レジリエンス入門連載記事のほかにも「挫折」をテーマにした記事を掲載しています。こちらも合わせてご覧ください。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。

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