未来を考える

2020/06/01

学生生活を終えると、人は当たり前のように就職し、働きはじめます。

就職活動をする中で、また仕事をする中で、「働く」とはなんだろう、自分は何のために働くのだろう、と疑問を持った方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、『「働く」ということについての本当に大切なこと』(白桃書房)『「いい会社」とは何か』(講談社現代新書)などの著者であり、リクルート社で働く、いわば働くことのプロである古野庸一氏に、その本質についてお伺いしました。
サイエンスシフトの読者の皆様に、働き方が見直されている今だからこそお伝えしたいお話です。

 

 
 

ある知人からLINEがきました。

「3月から、初めての在宅勤務。1か月以上やっているけど、仕事はちゃんと回っているよ。今まで30年間、何のために職場まで行っていたのか考えてしまう」と。

新型コロナウィルス感染拡大という危機をきっかけに、在宅勤務を本格的に取り入れている企業は増加しています。それに伴い、自らの働き方について、あらためて考える人が増えています。

「職場に行かなくても仕事が回る。だったら、職場はいらないのか」
「家での仕事。誰にも邪魔されないので、生産性が上がる」
「そうはいっても、一人で仕事をしていたら、気が滅入る」

働き方もそうですが、個人と会社の関係性を通して、「働く」ということをあらためて考え始めている人は増えています。

 

「働く」目的はなんなのか

会社に行って、会議に出席したりしていると、仕事をした気になります。実際、通勤して、会議に出るだけで疲れます。疲れるから、仕事した気になるのでしょう。一方で、在宅勤務をしていると、自分が提供している価値が明確になります。在宅勤務をきっかけに、貢献している価値が、意外に低そうだということに気がつく人もいるでしょう。

そうすると、「働く」ということは、自分に与えられた仕事があり、それを実行し、価値を提供し、その価値に対して報酬をもらうことだということになりそうです。それはそれで正しそうですが、それ以上のものもありそうです。

会社側は、仕事をすべてデザインできるわけではありません。個人に割り当てる仕事から漏れる仕事が発生することがあります。個人と個人あるいは組織と組織の間に落ちている仕事とも言えます。しかも、それは会社側からはよく見えないということもあり、個人側から提案してもらわないといけないような仕事です。

一方、個人側にとってみると、割り当てられた仕事だけでは、自分の能力を持て余していて、もっとできるということもあります。自分の能力を超えたことに挑戦することによって、自らの能力を伸ばしていくことができます。そういう場合には、個人は、自ら仕事をつくったり、「こういう仕事もさせてください」と訴求したりします。

そうすると、「働く」というのは、単に割り当てられた業務を行うだけではなく、組織の一員として会社をよくすることへの貢献や自分の能力を高める機会ということになります。

あるいは、在宅勤務は、職場の良さに気がつく機会かもしれません。わからないことを気軽に聞いたり、雑談をしたり。そのことで、孤独にならなくてすみますし、感謝されたり、感謝したり。そういう意味では、会社は、居場所を提供するコミュニティになっています。

有史以来、人はコミュニティを必要としてきました。そして、仕事の場が、コミュニティの場を兼ねていることもしばしば。狩猟採集民社会や農耕社会での仕事は、コミュニティの中での仕事です。辛いことがあっても、仲間の励ましがあって仕事を行うことができるし、仲間とともに何かを成し遂げて喜びを分かち合います。

人はコミュニティを求め、「働く」ことを通してコミュニティを作ることができます。そして、コミュニティの中に自分の居場所があれば、心が安らぎ、幸福を感じることができます。居場所というのは、単に自分らしくふるまえるという側面だけではなく、コミュニティ側から認めてもらえるということも大切です。そのように考えていくと、「働く」目的のひとつとして、社会的欲求を満たすことも挙げられるでしょう。

すべての仕事は在宅でできるわけではありません。私たちの生活を支える仕事の多くは職場に行くことで成り立っています。ウィルス感染は怖いけれども仕事に対峙しています。もちろん経済的な理由で、働かざるをえない人もいますが、医療従事者のように、使命感をもって働いている人もたくさんいます。仕事を通じて、社会に貢献しています。そういう人の存在によって、私たちは生かされていることに気がつきます。「働く」ことの尊さを感じます。

音楽家のように、コロナ禍の影響で、公演活動を封じられて、自分の仕事が社会にとって必要なんだろうかと悩む人もいます。一方で、病にかかり、落ち込んでいる人が音楽によって救われることもあることに気がつきます。必要がないように見える仕事でも必要だと思える瞬間です。「働く」ということと自分の存在意義が重なっています。

飲食店の店主は、美味しいものを提供し、お客様に「美味しい」と言われることを働きがいにしている人も少なくありません。しかしながら、政府からの自粛要請によって、経営が立ちいかなくなっている店主もたくさんいます。「働く」ということは生きがいですが、その前に経済活動でもあるということです。

新型コロナウィルス感染拡大に伴い、人々の価値観は変わるかもしれませんが、日本人の働く目的は「お金を得るため」という回答が5割強で、「生きがい」「社会の一員としての務め」「自分の才能や能力の発揮」と続きます(※1)。一方で、6割以上の日本人が「一生楽に生活できるお金があったとしても働くこと」を選択しています(※2)。

※1:内閣府『国民生活に関する世論調査』
※2:統計数理研究所 『日本人の国民性』調査

大学で話をする機会がありますが、この調査結果を学生に話をすると、驚かれます。どこの大学でも「一生楽に生活できるお金があったら働かない」とおおよそ9割の学生が答えます。「働かないのであれば、何をしますか。そのときに、どんな人生であったと総括しますか」という問いを投げかけると、「働く」ということをもう少し深く学生は考え始めます。お金は大切だけれども、お金だけで働いているわけではないということを学生は学びます。

私たちは、金銭以外に「社会とのつながり」や「他者からの承認や感謝」や「社会への貢献」のためにも働いていますし、自分自身の「成長」や「達成」や「新しいものの創造」のためにも働いています。あるいは、高齢になっても働く人たちと話をしてみると、「規則正しい生活」や「暇つぶし」のために働いている人もいます。

 

ジョブ、キャリア、コーリング

「働く」目的は多様ですが、生活の中あるいは人生の中での「働く」ことの位置づけも人によって違います。「働く」ことが生活や人生のほとんどすべてという人もいれば、「働く」以外のことに重きを置いている人もいます。そうした仕事との距離感を考える上で、社会学者のロバート・ベラーが提唱している「ジョブ」「キャリア」「コーリング」という考え方が参考になります(※3)。

※3:ロバート・ベラーら(1991)『心の習慣 -アメリカ個人主義のゆくえ』島薗進・中村圭志訳 みすず書房

仕事を単なるお金を得る手段と考えていれば「ジョブ」です。なるべく短い時間で多くの金銭が得られればいいという考え方を持っています。

一方で、仕事をすることには価値を置いており、仕事に対して、多くの時間を使って、仕事からお金だけでなく、出世や名声を得ることを目的としていれば、その仕事は「キャリア」です。社会的な地位が上がることや自分の影響を及ぼす範囲が広くなることに価値を置いています。また、競争に勝つことや経済的に潤うことに価値を置いています。

そして、仕事に価値を置き、仕事と生活や人生を切り離さず、仕事そのものが目的であり、その仕事をすることがまさに生きることととらえているとすれば、その仕事は「コーリング」です。天から呼ばれている、つまり「天職」というニュアンスです。

「ジョブ」「キャリア」「コーリング」どれも否定するものではありません。また、ひとりの人に、3種類の仕事タイプは混合していることも多いと思われます。つまり、生活のために働いている一方で、社会的な地位が上がることをうれしく思い、仕事そのものを楽しく感じているという状態です。人によってその濃淡がありますし、歳をとれば変わります。 

レズニスキーらは、仕事に対する認識(「ジョブ」「キャリア」「コーリング」)に関する研究を進めています(※4)。その研究でも、3種類の特徴が明らかになっています。たとえば、仕事を「ジョブ」ととらえている人は、「お金があれば退職したがっており」「ウィークエンドを喜び」「お金のために働いている」と答えています。一方で、「コーリング」ととらえている人は、「休日にも仕事のことを考え」「自分の仕事のことを語るのが好きであり」「お金が十分にあっても、今の仕事は続け」「人生の中で、仕事は最も大事なもののひとつである」と答えています。

※4:Wrzesniewski, A., McCauley, C., Rozin, P., & Schwartz, B. (1997). Jobs, careers, and callings: People’s relations to their work. Journal of research in personality, 31(1), 21-33.

「ジョブ」や「コーリング」ととらえている人に比べて、「キャリア」ととらえている人が最も若いという特徴があります。若さゆえ、現在の社会的地位が低いという状況にあり、より高い社会的地位を得たいという欲求があると考えられます。また、懸命に働くことで、高い社会的地位が得られる可能性があると考えているのではないかと推察されます。

レズニスキーらは、どの仕事タイプも推薦したり、否定したりはしていませんが、仕事を「コーリング」と認識している人は、「ジョブ」や「キャリア」と比較して、高学歴、高収入であり、社会的地位も高いと認識しているという結果になりました。また、「コーリング」の人たちは、生活全般、健康、幸福感、仕事満足という観点でも最も高い得点でした。

仕事をどのように認識するのか自由ですが、ベラーらのアドバイスやレズニスキーの研究を勘案すると、仕事を「コーリング」ととらえること、あるいは、逆に、「コーリング」と言える仕事をみつけることの重要性がわかります。

 

時代に求められるスタンス:キャリア・クラフター

「働く」ことについて考える上で、前提になる時代背景について、少し触れてみます。ひとつは、私たちが生きている時代は、今回の新型コロナウィルス感染拡大ということでわかったように、何が起こるかわからず、不確実で、変化が常態化している時代です。技術革新のスピードも早くなっていますので、私たちの仕事も変化していきます。AIやロボットによって、置き換わっていく仕事も増えます。そうすると、ひとつの仕事の寿命は短くなっていくでしょう。

一方で、私たち自身の寿命は長くなっていくことが予測されています。経済的な基盤、あるいは仕事を通じた社会的つながりという観点で考えていきますと、今よりも長い期間働く人は増えていくでしょう。

また、共働きが増える一方で、結婚しない人も増えています。それに伴って、家族のあり方も多様になってきています。それに呼応するように、働く時間、場所、雇用形態の柔軟性は高まり、働き方は多様になっています。

このような時代においては、個人は「働く期間は長くなり、ひとつの仕事・会社というよりも複数の仕事・会社を経験することが普通になり、自分なりに納得感があるキャリアをつくっていくこと」が求められるでしょう。それゆえに、自分なりにキャリアをデザインしましょうと言われます。しかしながら、世の中が不確実で変化が当たり前の時代において、自分のキャリアをデザインすることは容易ではありません。なので、試行錯誤を行い、時代に合わせながら、自分なりのキャリアを手作りすること、つまり「キャリア・クラフター」であることが求められます。

 

キャリア・クラフターであるための3つの観点

キャリア・クラフターであるための一つ目の観点は、「仕事との距離感を変化させること」です。

先ほど、「仕事の目的」と「ジョブ、キャリア、コーリング」について言及しました。それらは、年齢に応じて、あるいは環境に応じて変化していきます。

20代であれば、金銭的な余裕がない、それにもまして知識・スキルが足りないと感じるので、仕事の目的は「金銭」であり、「成長」になるかもしれません。仕事が生活の中心になる人も多いでしょう。しかし、仕事ばかりが人生ではありません。在宅勤務をきっかけに、家族のありがたさを知り、家族との時間に重きを置くことも考えられますし、地域活動や趣味を充実させていくことも視野に入ってきます。

いずれにせよ、生活の中での仕事そのものの位置づけ、つまり「仕事との距離感」は、年齢に応じて、あるいは環境変化に応じて、変化させていくことが大切になります。無意識に変化していくこともありますし、受動的に変化せざるをえないこともあります。ここで大切なことは、他の人と違いを意識することです。自分が仕事中心に生活しているから、他の人もそうあるべきと思ったり、他の人が仕事中心に生活しているから自分もそうすべきと思う必要はありません。多様な考え方、多様な働き方を包摂していくことがこれから益々求められます。

そうは言っても、毎日、長い時間を仕事する時間に費やす社会人は多いでしょう。そう考えると、仕事そのものが面白かったり、意味づけられていることを求める人も多いでしょう。それは若いころも大切ですが、シニアになっても大切であると言えるでしょう。自分にとって面白くなく、意味づけもされていない仕事を長い期間やり続けることは苦痛です。自分の持ち味が発揮され、人から認められることや感謝されるような仕事を求める人は多いでしょう。

そのように考えていくと、キャリア・クラフターであるためには「自分に合う仕事を見つけることをあきらめない」ことが大切であり、このことが二つめの観点になります。ここで「合う仕事」とは、仕事そのものが「面白い」という点と仕事に「意味がある」という点の2つの要素があると考えます。面白い仕事は、自分の強みが活かされ、自分で創意工夫ができ、創意工夫をやった結果のフィードバックがあるような仕事です。さらに、自分の能力よりも少し難しい仕事で、その仕事を通して、自分の成長が感じられるようなものです。

自分にとって「意味がある」仕事は、その仕事を行う推進力になります。会社の理念に共感して入社し、その会社が実現したい未来をともに作っているという意識が日々の仕事の活力を与えます。逆に、意味がない仕事ほど辛いものはありません。ドストエフスキーは『死の家の記録』で、流刑地での生活のことを描いていますが、その中で意味がない仕事を行うことの辛さを語っています。

どんなに残忍な人殺しでも聞いただけで身震いして腰を抜かすような、最高に恐ろしい罰を科すとしたら、ただ単に一から十までまったく無益で無意味な作業をさせればいいのだ。(中略)たとえば一つの桶から別の桶に水を移し、その桶からまたもとの桶に移すとか、ひたすら砂を槌で叩くとか、一つの場所から別の場所に土の山を移して、また元に戻すという作業をやらせてみれば(※5)

※5:フョードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー(2013)『死の家の記録』望月哲男訳 光文社

ただ、どういう仕事が自分にとって面白くて、意味があるのかということは、実際にやってみないとわからないことが多いでしょう。そういう意味で、キャリア・クラフターである三つ目の観点は「試行錯誤主義」です。たとえば、自分に合っている仕事だと思って、就職します。しかしながら、実際には、ぴったり合うということはなかなかありません。仕事は、小さなタスクの集まりです。営業という仕事であれば、見込み客の発掘、プレゼンテーション資料の作成、プレゼンテーション、顧客との関係性作り、クロージング、納品等々のタスクがあります。自分に合っているタスクもあれば、合わないタスクがあります。合わないタスクが多ければ、その仕事はなんとなく合っていないと判断します。そのようなときに、単に合わない仕事と片付けるのではなく、自分にとって合うタスクと合わないタスクを峻別することです。タスク一つひとつに対して、自分に合う、合わないということを蓄積していき、その後、それを吟味しながら、次の仕事を選んでいくことや仕事を作っていくことにつなげていきます。

そのことは、若い人だけではなく、セカンドキャリア、サードキャリアを考える人にとっても大切なことです。若い人であれば、今の仕事は向かないということで転職・独立をすることは、比較的容易です。しかしながら、歳をとってからの転職・独立することは、取り返しがつかないこともあります。なので、いきなり転職・独立するのではなく、気になる仕事をしている人の話を聞く、気になるセミナーを覗いてみる、副業としてやってみる、ボランティアでやってみるということを勧めます。

ソニーでは、社内外の兼業を奨励しています 。働く期間が長くなることを見据えて、現在の仕事以外の可能性を探るうえで、行っている施策です。本業に就きながら「試行錯誤」できる機会と解釈できます。

不確実で、正解がない時代。キャリアを描くことは難しいでしょう。ゆえに、自分に合ったキャリアを動的に形成していくことが現実的な処方箋と思われます。年齢や環境に応じて、仕事の目的や距離感を意識して、とりあえず、よさそうな方向に動いてみる。動いてみたところが、自分に合うのかどうか試してみる。自分に合っているタスクと合わないタスクを吟味してみる。面白いという観点ならびに意味があるという観点に照らし合わせて、合っているタスクを中心に、自分の仕事を組み立てていくことで、充実したキャリアを歩めるのではないかと思います。

大切な観点を一つ忘れていました。目の前にあるタスク、それはどんなものでも全力で行い、周囲の期待、あるいは期待以上の成果を上げるように心がけましょう。そのタスクが合うか合わないかというのは、全力でやらないとわかりません。また、全力でやることが自分の能力開発にもつながります。さらに、周囲の期待以上の成果を上げていくことで、周りの信頼を勝ち取り、結果、キャリアは広がり、キャリアをクラフトしていくことができます。先が見えない時代、そのようなキャリア・クラフターであることをお勧めします。

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
組織論のプロに聞いた、「働く」のいちばん大事なところ
タグ一覧 就活 新時代を生きる
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古野 庸一

リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所所長。東京大学工学部卒業後、1987年株式会社リクルートに入社。 南カリフォルニア大学でMBA取得。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、リクルートワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事。 2009年より現職。著書に『「働く」ことついての本当に大切なこと』(白桃書房)「『いい会社』とは何か」(講談社現代新書)「日本型リーダーの研究」 (日経ビジネス人文庫)など。

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