未来を考える

2020/02/21

前編はこちらから【地に足が付いたイノベーション〜ドラッカーに未来の創りかたの学ぶ(前編)】

 

 

“予期せぬ成功” を探しなさい

この対話のテーマである「未来」について、これまでと違う未来を創ること、すなわちイノベーションを起こすことと認識してみましょう。

ちょっとこの図を見てください。イノベーションの樹です。ドラッカー『イノベーションと企業家精神』で展開されている記述を参考につくったものです。

すべてが変化を見つけるときの着眼点を示しています。ドラッカーのマネジメントでは、新しい事業をはじめるために、どのようにものごとを見て、どのようにアイデアを出せばよいか、どう考えればよいかについての有益な視点が7つあります。いずれも、どう視覚を働かせればよいかに関するものです。

最初が、「予期せぬものを探しなさい」です。二つ目が「ギャップを探しなさい」。三つめは「ニーズを探しなさい」などと続きます。

この中で最も成功しやすいのは、①「予期せぬものを探しなさい」、つまりどこからか飛来してくる鳩で表現されているところです。

――これはどのようなものでしょうか。

私たちが新しい事業や新しい製品・サービスで成功を収めようと思ったら、まず世の中の変化を見なければなりません。幸いなことに、世界は変化で満ち溢れています。これら世の中の変化を利用して、自らの事業を成功させていく視点です。想像もしていなかったところから不意にやってくることのなかに成果の種が眠っていることを意味しています。

「予期せぬもの」とは何でしょうか。思い出してみてください。「予期せぬ人からの連絡」「予期せぬコメント」「予期せぬ褒め言葉」「予期せぬ苦言」「予期せぬ出来事」「予期せぬ成功」「予期せぬ失敗」といった自分たちが予期しなかったことを事業のまわりで探していくのです。

たとえば、これまでひょんなことで自分の思いもよらない点を褒めてくれる人がいたり、何気なく参加した飲み会から悩みの打開策が生まれたり、小さな新聞記事から新しい企画を思いついたりなど、そんなことはありませんでしたでしょうか。

なかったはずはありません。けれども、多くの場合、予期せぬ成功は気づかれもしない。そればかりか、無視されたり嫌われたり迫害されたりさえする。そして、多くの場合イノベーションの種は気づかれることもなく、去ってしまうのですね。

 

ある青果店が見つけたこと

イノベーション、言いかえると、これまでと違う未来を創るということは、なんらおおげさなものではなく、かえって素朴なものだとドラッカーは力説しています。ほんのちょっとしたことなのです。

――例を挙げて説明してください。

私の知人から聞いた話ですが、ある青果店があるときから急速に成長したといいます。通常、青果店はそれほど成長する業界ではないでしょう。なぜ成長できたのでしょうか。

この青果店は、店でも野菜を売っているのですが、それ以外でも、お弁当とか給食の会社に野菜を卸していたという。あるとき、「明日、工場で野菜を加工してくれているパートさんがまとまって休んでしまう。そうすると手が足りなくなってしまう。いつもはそのまま野菜を卸してもらっているけれど、明日だけでいいので、会社の仕様に合わせて野菜をカットして納品してもらえないか」。お得意の顧客からこんな要望があったというのです。

それを聞いた青果店の経営者の方は「面倒だな」と思ったそうです。当然ですね。野菜をカットする設備もないし、人もいないわけですから。

この「面倒くさいな」「気が進まないな」というのは、後々考えてみるとイノベーションの発する秘密のサインみたいなものです。そこには「予期せぬ何か」があるのです。

結果として、青果店の経営者は、お得意さんでもありますし、何とか対応してあげたいと思った。身内とか社員の家族の方々に声をかけ、人海戦術で野菜をカットして納品できたというのです。

そのとき、経営者の方は「今回の出来事は自分たちにとってどういう意味があるのだろう」と考えたのだそうです。「顧客からの予期せぬ要望ではないか」と。

よくよく考えてみると、カットすることによるメリットもあることに気づきました。野菜は形が悪いと商品価値が出ません。たとえば大根が二股になっていたり、ねじれていたら、価値が下がって、お店には置きにくいし、悪くすると値段もつかなくなってしまいます。

でも、同じ畑でできた野菜なら、形はよくなくても、味は変わらないはずですから、カットしてしまえば問題はありません。かえってカットした野菜を納めるなら、仕入れ値を下げながら、顧客本位の納品ができると気づいたというのです。 

そんなことを考えながら、新しいお客さんのところに行って、「うちはまったく同じ金額で御社の仕様に合わせてカットして納めます」というと、たちまち契約がまとまるわけです。カットした野菜をそのまま、従来の値段で納めてもらえるならうれしい話です。そのように急激に青果店は成長したというのです。

 

「予期せぬ出来事」を利用する

――つまるところ、何が必要なのでしょう。

「予期せぬ出来事」を未来からのメッセージと受け止めることができるか、それを反省して現実にフィードバックできるかがポイントになってきます。

そのためには、予期せぬ出来事を利用するには、仕組みにしていかなければなりません。場当たりでは絶対にだめです。なぜなら、「予期せぬ出来事」は無数に起こることでありながら、すべてが事象としては一回きりのことだから。まさに一期一会の世界なのです。

ならばなおさら「予期せぬもの」を見つける仕組みをつくっていかないと、なかなか継続的に成長の種は見つからないのははっきりしています。

では、「予期せぬことの多くはどこで起こっているか」という問いが次に出てきますね。結論から先に申し上げますと、「予期せぬもの」のほとんどすべては現場で起こっています。というよりも、現場とは予期せぬものと人が遭遇する場のことを言うのです。企業でいえば、お客さんとの接点やお店などとのコンタクトの場で起こるものです。

とするならば、企業経営者や管理者にとって、未来について意味ある情報、すなわち「予期せぬもの」に伴う情報を集めようと考えたら、現場で起こっている出来事を体系的に収集する努力が必要になる。

――現場で起こっていることが大事ということですね。

そうです。私は晩年のドラッカーにインタビューする機会をもったのですが、どれほど高度な情報システムをもつ企業であっても、現場で起こる予期せぬことに伴う情報を体系的に収集し役立てている企業はほとんど、あるいはまったくないと嘆いていました。

――では、そのための仕組みとはどのようなものでしょう。

ポイントは、①記録して、②共有し、③反省して、④未来の行動にフィードバックしているかにかかわっています。まさに、フィードバック活動を組織的・体系的に行っているかということです。

一例として、アメリカのディズニーランドでは、「予期せぬもの」という言葉を使って仕事をしているそうです。

ディズニーランド内にはいろいろなショップがありますね。ショップを買いに来たお客さんで、「アトラクションのマップはありませんか」と聞かれたら、マップを所望するお客さんがいたことをメモして記録に残して共有するのです。

その際、「理由は考えない」ことです。頭の中で考えられたことは、現実像をゆがめてしまうからです。でっち上げられた理屈のほうが現実を作ってしまう。なぜかはわからないけれど、この一週間でマップを所望するお客さんが30名いたなら、「マップの問い合わせが30件ありました」と、ありのままに記録をとるのです。余計なことは考えないことです。

記録を後で見ていって、理由はわからないけれど、マップをほしいというお客さんが多いとわかると、マップを置くようにするというのです。

繰り返しますが、ポイントは、理由はわからなくてもメモを残すことです。理由は当の顧客しか知りませんし、理由がわかったころには現実が変わってしまっているかもしれないからです。

 

「うまくいったことだけを考える会議」

――具体的にはどんなふうに仕組み化するのでしょうか。

ドラッカーが推奨する会議の方法をご紹介しておきたいと思います。

実際にコンサルタントの方々が実践して成果があがると感じる折り紙付きの方法です。

「うまくいったことだけを考える会議」です。ある営業担当者が一月動いてみて、5件のお客さんがとれたとします。一件一件のお客さんについて、どのようにして出会うことができたのか、どうして選んでもらうことができたのかなどを全員で徹底的に考えるのです。

そのお客さんに出会ったとき、最初に何を話したのか。どんな資料を提供したのか。話し方はどうだったのか。お客さんはどこを評価して契約してくれたのか。ポイントは何だったのか。

そのような項目を用意しておいて、一件一件について担当者が書いたものを持ち寄ります。発表内容は、「売れた理由」「うまくいった理由」だけです。

たいていの会議は逆ですね。うまくいかなかった理由や失敗ばかり問い詰められ、責められることが多いものです。そんな状況の中でやる気を出せというほうが無理というものです。反対に「売れた理由」だけを考える。「なぜ売れたのか」だけを質問してもらうのです。

――確かにそうですね。

たとえば、つまらないことですが、かつてある方と話していて、印象的だった話があります。その方は、何か郵便物、たとえば打ち合わせの資料とか、見積書や請求書などを送るときに、ちょっとした手書きの添え状、あるいは一筆箋を入れていたというのですね。

ご本人は習慣で行っていただけのもので、たいしたことをしているというつもりはなかったそうです。けれども、何かの折に、受け取る方から話を聞いたら、添え状がとてもていねいで、気持ちよく受け取ることができたという話を聞いたというのです。

一方で、何かを送るときに、添え状なしで送る人が思いのほか多いこともそのときに気づかされたといいます。そのときはじめて、自分が礼儀正しく、ていねいな人であることを知ったというのですね。

同じことは、日常の中でいくらでもあるのではないでしょうか。「字がきれいですね」「あいさつが気持ちいいですね」とか、「電話の受け答えがじょうず」などそのような素朴なことでいいのです。素朴なもののなかに強みが眠っているからです。

ちなみに、強みなどわざわざ見つけ出さなくても、誰でももっています。ただ強みはまどろんでいることが多いので、意識してあげることで起動していきます。強みを覚醒させてあげることです。そのためのツールがフィードバックなのです。

そのときも、人が自分に対してしてくれたちょっとしたコメントや感想を意識することがだいじだと思います。人が語っていることには何らかの意味があると考えるべきです。

これなどは何より顧客側の発想でものを考える一つの例でしょう。何が喜ばれたのだろう。何が役に立ったのだろう。お客さんしか知りません。以来お客さんの発した言葉の意味や、隠された本音を深く考えるようになったといいます。

さらにもう一つ。何かがうまくいくと、ほかの人も真似をするようになるのです。こうしてよい行動をみんなが真似するようになる時、よい文化が生まれるようになります。

「そんなやり方をしていたの? 自分にも教えて」ということが起こります。

こうして、人の話に以前より耳を傾けるようになったり、人の行動を意識して観察するようになる。これなどは良質なフィードバックだと思います。個人の生産性ばかりでなく、組織全体の生産性が上がっていくはずです。

ポイントは、予期せぬことを「最高の先生」と考えることです。「予期せぬこと」を学習のための機会としてオープンにとらえていくことです。ドラッカーのマネジメントの中核にある考え方です。

まさにその点から、強みを発見する最も簡単な方法は、過去においてうまくできたことを探すことだというのです。冒頭に述べたように、過去においてはうまくできたことはあまりにはっきりと現れているわけですから。過去にできなかったことで未来にホームランを打とうなど無理な相談です。未来創造はばくちではないのですから。

同時に、過去への反省を伴わない未来志向など意味をなさないばかりか、害をもたらします。繰り返しになりますが、もし強みをもとに人生を切り開こうとするなら、行うべきことは簡単です。過去を観察すればよいのです。そのなかに「ささやかな成果」を探し当てられたら、しめたものです。

 

未来を創るために、今日から日記を書いてみる

――最後に個人でもできるシンプルなことがあれば教えてください。

未来は予測できないとする見解を紹介しました。けれども、一つだけある。未来を予測する方法です。

自分で作ってしまうことです。こんな確実なことはないでしょう。

「The best way to predict the future is to create it」とドラッカーは表現しています。未来を予測する最善の方法を自らそれを創造することだと。もう一つ、変化をコントロールすることはできない、できるのはその先頭に立つことだけだとも言っていますね。未来に何をするかではなくて、「今」何をするかなのです。

私は時々思います。未来とは存在していないものなのかもしれない。あるいは、現在の意味を測る架空の尺度に過ぎないのではないか。なぜなら、未来はやってきたときには、すでに現在になっています。そして気づけば過去になっています。その意味では、未来は頭の中にのみ存在するコンセプト以上のものではないともいえる。

正確に言えば、新しい未来を創るために、今とるべき行動を探すのがイノベーションです。目線は未来にあっても、行動の時制は「今」なのです。

ところで、あなたにとって新しい未来を創る確実な方法があるのですが、知りたいですか?

――もちろんです。教えてください。

実は、この記事の前編【地に足が付いたイノベーション〜ドラッカーに未来の創りかたの学ぶ(前編)】でもすでに言いました。今日から日記を書くことです。一日数行でもいいから、できれば毎日書くことです。そして、必ず一定期間、たとえば半年後とか1年後とか決めて読み返すことです。それだけで、確実に未来は変わります。

日記を書くのは過去を意識する最も確実で簡単な方法なのです。その証拠に、中世から近代にかけて、ヨーロッパから世界全体に教線を拡大したプロテスタントやカトリックでは、なぜか共通して日記が奨励されていたそうです。

高額な自己啓発セミナーに行く必要などありません。かえって親和性の怪しい思考をインストールされるのは危険です。未来はすでに過去や現在の中に起こっているのですから、丹念かつ繊細に観察の目を向ける。そしてそれを反省するのです。

日記とは、言い換えれば日々の自分の行動観察であり、内省とセルフモニタリングのための最高の道具です。何よりお金がかかりませんし、時間もわずかで済みます。一人でできます。何を考えたか、誰と会ったか、どんな話をしたか、どんな本を読んだか、何を食べたか、どんな景色を見たか……。自分の行動観察を何度も行うことで、変化が見えるようになります。日々の小さな変化であっても、長い時間になれば大きな変化になります。

私の好きな哲学者ニーチェはこんなことをいっています。「この世界にはあなたにしか歩めない道がたった一つだけある。その道をたゆまぬ努力をもって見つけ出し、堂々と歩め」。強みをもって未来を創造するうえでの至言ととらえてよいのではないでしょうか。

自分だけの道はすでに自分の中にあるのです。書いた日記を読み返すのは自分の歴史を振り返りながら創造するのと同じことです。ささやかな日々の営みがやがて人を巨人のレベルにまで成長させてくれるのです。

――日記を書き続けると、「継続的に」「何度も」自分を見つめることができますね。その積み重ねが未来を創ることにつながる。そう理解しました。まずはささやかことからでも、今日始めてみたいと思います。

 

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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井坂康志

ドラッカー学会理事。文明とマネジメント研究所研究主幹。 ものつくり大学特別客員教授 等 1972年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了。 世界的なドラッカー研究者にしてその主要な著書を翻訳してきた故・上田惇生氏とともにドラッカー学会を設立し、その思想と実践の研究を行う。2005年、95歳になったドラッカーにクレアモントの自宅でインタビューを行う。これは外国人編集者として最後となる単独インタビューだった。 著書に『自らをマネジメントする ドラッカー流 フィードバック手帳』(かんき出版)、『P・F・ドラッカー: マネジメント思想の源流と展望』(文眞堂)等がある。

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