製薬業界を知る

2019/02/14

「製薬業界って今どんなカンジ?」
……そう考えた就活中のみなさんのために、2018年に報じられた、重要なニュースをまとめました。そのピックアップは、製薬の世界を常に追い続ける専門誌『薬事日報』さん。これからどう働くか、どう生きていくかを考えるために、プロの知見を活用してください。

薬事日報_

協力:株式会社 薬事日報社

医薬業界向け専門紙「薬事日報」、薬学生向け情報紙「薬事日報 薬学生新聞」等の発行をはじめ、電子メディアの運営、専門情報書や実務書、解説書などの図書出版を手掛ける。

 

【武田薬品がシャイアーを7兆円で買収】

製薬業界ニュース

内資系製薬企業最大手の武田薬品は、アイルランド同業のシャイアーを約460億ポンド(7兆円)で買収しました。シャイアーは、収益性の高い希少疾患治療薬の世界的なリーディングカンパニーであり、世界最大の製薬市場を有する米国が売上高の6割を占め、武田薬品とほぼ同程度の売上規模を持ちます。これまでは、世界売上第20位と中規模の製薬企業だった武田薬品ですが、シャイアーの獲得で売上は約3兆4000億円と世界トップ10のメガファーマが誕生しました。

製薬業界では巨額の企業買収(M&A)が盛んに行われており、今年に入って早速、米ブリストル・マイヤーズスクイブが、血液癌領域に強い米セルジーンを約8兆円で買収するというニュースが飛び込んできました。製薬業界の研究開発費は他業界と比較して巨額であり、年数千億円の売上規模に上る大型新薬の特許切れによって、売上収益が大幅に減少する“パテントクリフ”をどう乗り越えるかが大きな課題です。メガファーマは、革新的な医薬品を継続的に販売していくために、魅力的な開発品を有する企業買収を繰り返してきました。

武田薬品も、2008年に癌領域の強化を目的に米ミレニアム・ファーマシューティカルズを88億ドル、11年に新興国への販路拡大を目的にスイスのナイコメッドを96億ドル、さらに癌領域を強化するため17年に米アリアド・ファーマシューティカルズを54億ドルとM&Aを続けてきましたが、今回は日本の企業としては最大規模の買収案件となりました。

これから武田薬品は、グローバル市場を舞台に、米ファイザーやスイスのノバルティスといった強力なメガファーマと生き残りをかけて競合することになります。今後のM&Aの動向と共に、“日本の武田”が世界でどれだけ通用するかが注目されます。

 

【地域包括ケアに対応した情報提供体制へ】

団塊の世代が75歳以上となる2025年をメドに、重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築が、市町村や都道府県で進められています。

各地域で、高齢化率や各疾患での患者分布、専門医と病院の数、医師に対する治療ガイドラインの浸透率などが異なり、製薬各社も地域ごとに異なる医療環境にどのように対応できるかが課題となっています。医師を中心に多職種連携のチーム医療を構築し、地域に住む患者の状況に応じた医療を提供しているのを受け、情報提供活動の手法を変えるようになってきました。

武田薬品や中外製薬は、都道府県ごとに営業体制を細分化させ、ジェネリック医薬品メーカーの日医工と新薬メーカーのエーザイは連携して、地域包括ケア市場を開拓しようとしています。

従来のように、本社が各支店に一律的な営業戦略を指示しているだけでは、各地域の医療ニーズを満たすことは難しくなり、医薬品の情報提供で中心的な役割を担うMRには、病院完結型から地域完結型の医療にシフトし、担当する地域の医療状況に関する深い理解が求められるようになりました。

 

【薬価制度の抜本改革】

製薬業界ニュース

政府は昨年4月、2年に1度、医療用医薬品の価格を決める薬価改定に合わせて新たなルールを導入しました。新薬の特許期間中は薬価を維持する「新薬創出等加算」を抜本的に見直し、新薬の約70%弱が新薬創出等加算の要件を満たさず、薬価が引き下げられるといった製薬業界にとって大変厳しい制度の導入となりました。また、ジェネリック医薬品の上市後10年が経過した長期収載品については、第一段階としてジェネリック医薬品の2.5倍まで引き下げ、最終的にジェネリック医薬品の薬価に揃えるルールも導入しました。

抜本改革の背景には、高騰する医療費を削減したい政府の狙いがあります。高齢化が進んでいる日本では、国の社会保障関係費が年々実質的に伸び続けています。この伸びを抑えて財源を確保するため、政府が既存の薬価制度にメスを入れた形となりました。昨年4月の薬価改定では、薬価ベースで平均7.48%の引き下げという製薬業界にとって厳しい制度変更となり、そのうち抜本改革分が薬価ベースで1.31%を占めました。

しかし、業界側からは反発が相次いでいます。製薬企業の業界団体である日本製薬団体連合会の手代木功氏(塩野義製薬社長)、日本製薬工業協会の中山讓治氏(第一三共会長)の両会長とも、薬価制度の抜本改革について、「新薬開発のイノベーションを阻害する結果となる」と厳しく批判し、制度の見直しを訴えています。

医薬品産業は、国の社会保障制度と密接に関わっている業界でもあります。業界の今後を考える上でも、政府の動向を常に意識する必要があります。
 

 

【ジェネリック医薬品 数量シェア70%を突破】

ジェネリック医薬品の数量シェアが70%を突破しました。日本ジェネリック製薬協会が調査した2018年7~9月の速報値では73.2%に達しており、医療費適正化の中で国が推進する「20年9月までに数量シェア80%の目標達成」に向け、順調に進捗しています。欧米に比べ、独占販売期間が満了した新薬(長期収載品)が多く処方され、ジェネリック医薬品の普及率が低かった日本ですが、広く根を下ろしたと言えるでしょう。

11年にはほぼ40%でしかなかったジェネリック医薬品の数量シェアが、およそ7年で70%を超えるまでに普及してきたのは、調剤薬局や病院で先発薬剤からジェネリック医薬品に切り換えることで加算される診療報酬上のインセンティブが追い風になったこと、患者に使用されるにつれて、先発品よりも安価で、有効性や安全性、品質に変わりがないという社会的認知が広がり、ジェネリック医薬品に対する信頼感が高まったのが背景にあります。

ただ、20年9月までの数量シェア70%から80%への道のりは、これまでにはない急峻な坂を登らなければなりません。ジェネリック医薬品の浸透率には地域格差が生じており、九州・沖縄などでは高い数量シェアを持つ一方、大阪や東京、神奈川など大都市では普及が遅れています。各地域の特性に応じた取り組みが必要になるでしょう。

さらに、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病を対象とした薬剤では、ジェネリック医薬品への切り換えが進む一方で、患者の生命に直結する癌に対する抗癌剤では、先発品を使い続けるケースもまだ多いのが現状です。錠剤やカプセル剤などの経口剤に比べ、点眼剤や貼付剤など患者の使用感が重視される薬剤も、ジェネリック医薬品への切り換えに抵抗が見られています。

数量シェア80%は一つの目標ですが、あくまでも通過点。これまでは先発品と安全性・有効性が同等で経済性に勝るジェネリック医薬品が選ばれてきましたが、将来を考えると患者や医療者の目線で、どんな病気でも安心して薬剤を使ってもらえるだけの信頼感や、利便性や服薬アドヒアランス* などの付加価値が求められるといえそうです。

*服薬アドヒアランス……薬の使用に関して、患者側が積極的に関わること

 

【製薬企業によるデジタル化の推進】

製薬業界ニュース

薬価引き下げなど製薬企業の事業環境が厳しくなる中、人に依存した業務プロセスを見直し、人工知能(AI)などのデジタル技術に任せることで、業務の生産性を高める動きが加速するようになってきました。

田辺三菱製薬と日立製作所は、新薬開発でAIを活用し、臨床試験の効率化に向けた連携を開始しました。中外製薬は、IT企業「フェアユース」が開発したAIによるビジネスアシスタントシステムに、対話型プログラムで製品に関する問い合わせに回答するチャットボット「MI chat(エムアイチャット)」を導入し、抗インフルエンザ薬「タミフル」を対象に同社ウェブサイト内の医療従事者向け情報ページで運用を開始しました。21年には全製品で対応を目指す計画です。

沢井製薬もジェネリック医薬品メーカーでは初めて、日立システムズが提供する対話型自動応答AIサービスを取り入れ、自社ウェブサイトから医療関係者からの問い合わせに対応しています。そのほか、電子カルテや診療報酬明細書(レセプト)などの医療データ、在宅における活動量や脈拍、血圧といった患者発データを集積し、対象となる医薬品の新たな薬理作用や適応症、副作用が疑われる兆候を医療ビッグデータからAIで解析する試みも出てきています。

デジタル技術は医薬品のかたちも変えました。デジタル技術と医薬品を統合した“デジタル・メディスン”といった斬新なアイデアはその一つ。大塚製薬が米国で承認を取得した、抗精神病薬「エビリファイ」の錠剤に摂取可能な極小センサーを組み込んだ世界初のデジタル・メディスン「エビリファイ・マイサイト」は、極小センサーが体内を通過した際に、患者の服薬状況が医療従事者に自動的に通知される仕組みで、大きな注目を集めました。

医薬品や医療機器を使わずにソフトウェアで病気を治す“治療アプリ”の時代もいよいよ幕開けとなりそうです。米国では糖尿病や癌で治療アプリの臨床エビデンスが発信されており、国内でも医師が起業したデジタルヘルスのスタートアップ「キュア・アップ」が、ニコチン依存症や非アルコール性脂肪肝炎、高血圧症を対象に治療アプリを開発しています。

 

【まとめ】

薬価の引き下げ、新薬の枯渇、競争の激化、医薬品原料の調達費や医薬品開発費の高騰など製薬企業を取り巻く環境がますます厳しい状況になる一方、デジタル化や国際化の進展で、製薬企業がこれまで想定していなかった新たなビジネスチャンスも生まれています。中には社員から事業アイデアを募り、事業化に至ったケースもあるなど、個の突破力を期待する企業も増えています。今後は、医薬品産業に携わる上で倫理観はもちろんのこと、「患者視点」「ビジネス的思考」「地球儀を俯瞰した国際的な発想」といったマインドセットが製薬業界で活躍する上で重要といえそうです。

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SCIENCE SHIFT編集部

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