製薬業界を知る

2019/07/29

サイエンスシフトでも、また製薬業界の「業界研究」でもおなじみの長尾剛司さん。薬学部から製薬会社、そして今はITと、医薬品業界を冷静に見つめながら活躍し続けてきた、その道のプロです。

<長尾さんの記事はこちらから>

今回、そんな長尾さんにぶつけてみたのは、「製薬業界に就職したいかも?」と考えている学生のみなさんの、ド直球な「?」です。これに答えてもらうのに、長尾さんほどの適任はいない、と編集部は考えています。長尾さんも、自らの経験と考えをもとにしながら、真剣に答えてくれました。

 

Q.地元で就職するか、東京に出るか、迷っています。長尾さんの考えを教えてください!

長尾さん回答:
結論から言うと、東京とか地元とか選択肢を二者択一で考えるのではなく、もっと視野を広げるとよいと思います。本社が東京であろうと地元であろうと、全国転勤がある会社もあるでしょうし。就職した当時は、事業所が1ヶ所しかないとしても、規模拡大などで違う地域へ出て行くケースもあるかもしれません。社会人として経験を積むと、自分の考えが変わることもあるでしょう。
私のキャリアのスタートとして選んだのは、北海道でした。北海道には、実家があるわけでもなく、親戚も友人もいない、いわゆる縁もゆかりもない地域を選びました。

私自身、大学へは神奈川県にある実家から通っていました。就職したら、なんとなく東京勤務だろうなと思いながらの就活でした。第一製薬(現第一三共)のMRとして採用され、入社して4月~9月末までは研修でした。研修所での研修以外に実地研修として、先輩MRに同行して現場を学ぶ研修がありました。10月の配属までに3回の実地研修があり、1回目は実家からはなれた場所で1週間、2回目は実家から通える場所で2週間、3回目は配属予定先での実地研修です。

1回目の実地研修は5月のGW明けで、私は札幌支店になり、同期入社数名と行くことになりました。それまで行ったことない札幌でしたし、5月というとても気候のいい時期でしたので、完全に旅行気分でした。札幌の病院やクリニック、医薬品卸を複数の先輩MRに1週間同行しました。先輩MRの皆さんが、きっと選んでくれたのだと思うのですが、お会いする先生方は、社会人としての作法も知らない私を歓迎してくれて、なんて素敵な土地柄なんだと思いました。旅行気分で、学生気分の抜けない私でしたので、仕事を忘れ楽しんだ実地研修を終えました。

1回目の実地研修が、福岡だったら福岡希望だったかもしれませんし、仙台だったら仙台を希望していたかもしれません。2回目の実地研修を終え、希望勤務地を選択できる時には、札幌支店と書いていました。配属発表の時には、希望がかない札幌支店になりましたが、勤務地は帯広といわれ、最初は帯広ってどこ?状態でしたが。

今思えば、私はこの札幌支店でよかったです。帯広に7年間、その後異動で札幌に3年間勤務して、第一製薬を辞めてしまいましたが、私にとって北海道は第二の故郷です。東京生まれ神奈川育ちの私にとって、かけがえのない経験となりました。

東京でも地元でもない第3の場所もいいものですよ。私の周囲には、その第3の場所で結婚し、定住してしまった仲間も多いですから。

 

Q.会社説明会や面接も、情報収集の一部だと思っています。製薬業界の場合、どんなところを見ると良いでしょうか。

長尾さん回答:
現在の新卒の就職活動って、実質たった数か月しかありません。そんな短期間に情報収集して、人生を大きく動かす選択をするわけですから、とても過酷な状況だと思います。会社説明会も面接も、情報のほんの一部分を切り出された状態ですし、しかもきれいに整えられた情報でしょう。まだ、社会を知らない学生にとって、その情報の真の価値がわからないと思います。企業側も、持っている情報をすべて伝え切れていないでしょうし、入社してからこんなはずではなかったということも少なくありません。

そこで、医薬品業界の中でバリューチェーンを意識していると、視野が広くなり選択肢の広がりも感じられると思います。

医薬品業界には、薬をつくる、薬を売る、薬を運ぶ、薬を選ぶなど、薬をどう扱うかの価値の連鎖が存在します。近年では、このバリューチェーンも境目がなくなりつつあります。薬を運ぶ役割であった医薬品卸が医薬品の研究開発領域や販売に注力していたり、他の業界から薬をつくる創薬領域に参入してきたり、そもそも業界の垣根が変化しています。

今の世の中、最初の1社に人生のすべてをささげる必要もないので、時代の変化、業界の変化の波を感じ取り、転職すればいいと考えています。

 

Q.製薬業界は、やっぱり「お堅い」のでしょうか。自分はどちらかというとラフな性格で、果たしてこの業界でやっていけるのか、不安でいっぱいです。

長尾さん回答:
「お堅い」定義にもよります。医療人と接点をもつ業界なので、服装や髪形などは「お堅い」かもしれません。やはり仕事相手は人間です。もしチャラい人ですと、そもそもその薬が効くのか怪しいと受け取られてしまうかもしれませんし、薬の消費者である患者さんにとって、なんとなく信用ならないというのは、心理的効果にも影響するかもしれません。業界として、イメージや信頼を重視する姿勢があるかもしれません。

その反面、ラフな性格はむしろ良いほうに働くような気がします。ラフというのは、少し抜けているというか、いい意味での鈍感力の強さは、現代社会で求められている「レジリエンス」につながります。

医療周辺では、患者さんの生命と向き合います。1分1秒を争うこともあれば、ほんの微量な差で副作用が発生したり、死につながったりするかもしれません。医療者は、リスクを背負って患者さんと向き合っていますので、やはり求められることは、とても厳しいものもあります。しっかり受け止められるタフさも、求められるでしょう。ラフに息抜きもできるほうが、長く勤めることができると思います。

現在、私はIT業界に越境しましたが、こちらの業界は服装も髪形も「緩い」感じです。ベンチャー企業にもお会いすることもありますが、Tシャツにジーパンなんて普通です。そんな中、お堅い医薬品業界にいた私は、相変わらずスーツスタイルです。慣れ親しんだスタイルは、変えることができず浮いていますが、これはこれでアリかと受け入れています。

※本記事の内容は筆者個人の知識と経験に基づくものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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長尾 剛司

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)ライフサイエンス事業部所属。 1972年生まれ、薬剤師、北里大学薬友会理事。 北里大学薬学部卒業後、第一製薬(現第一三共)入社。 MRを経て、マーケティング企画業務部門にて市場分析、販売促進、施策管理に従事。日本調剤へ転じ、処方せんデータ分析による医薬品の効果的な薬物療法推進や、QOL向上など調査・研究事業にかかわった。 その後、医薬情報コンサルティング企業であるIMSジャパン(現IQVIAソリューションズ ジャパン)にて、医療関連データの新規事業開発を担当し、薬局管理支援システムをローンチさせた。日本IBMへ転じ、ヘルスケア&ライフサイエンス事業部のシニア・マネージング・コンサルタントとしてデータアナリティクスや、AI構想策定支援などにかかわった。2018年8月より、現在のCTC ライフサイエンス事業部において、新規事業開発を含めた統括的なマネジメントを行っている。 また、学生向けの就職活動の業界研究講演や、業界エキスパートとしてアドバイスも行い、医薬品業界への橋渡しをしている。 著書:「よくわかる医薬品業界」(日本実業出版社)

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