仕事を知る

2021/05/26

「働くこと」にまつわるニュースを見聞きしていると、「働き方改革」や「ジョブ型雇用」、「脱年功序列」など、新しい働き方の広がりを伝えるキーワードが飛び交っています。また、withコロナの時代、仕事をする環境そのものも大きく変わってきている印象があります。
そのようななか、新たに社会に出ていく就活生、新入社員、既に働いている若手社会人はどのような仕事ぶりを求められているのでしょうか?

長年、新人若手育成を専門領域としてきたリクルートマネジメントソリューションズ研究員・桑原正義さんに聞き、前後編にまとめました。
前編のキーワードは、「VUCA/ブーカ」。変化が激しく、正解のないとされるビジネス環境で、新社会人はどんな一歩を踏み出していけばいいのでしょうか。

 

取材協力:
リクルートマネジメントソリューションズ
主任研究員 桑原 正義さん
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、2015年よりトレーニング商品の開発に携わる。新人若手育成を専門領域とし、10年以上のコンサルティング経験を土台に、これからの時代の育成や学習手法の研究開発に取り組んでいる。

 

優秀な学生を採用しているのにうまくいかない? 育成の現場が変わったターニングポイント

 
──リクルートマネジメントソリューションズは、企業の人材採用や育成、組織開発に関するサービスを提供する会社として知られています。そのなかで桑原さんはどのようなお仕事をされているのでしょうか?

人材育成に関するトレーニングなどのサービス開発に携わり、新入社員や若手社員向け、その上司や育成担当者向けの研修プログラム、eラーニングをはじめとしたオンラインでの研修プログラムなどを手掛けています。なかでも私が専門領域としているのが、新人若手育成です。この領域は時代の変化が最も強く現れる場所。それを強く感じたのが、2005年前後の出来事です。

 
──どのような変化があったのですか?

就職氷河期が終わり、大手企業を中心にそれまで自粛していた新卒採用が再開されました。その後「ミレニアル世代」と呼ばれるようになる、新たな価値観を持った若者たちが本格的に社会に出て、職場のマジョリティーになっていったターニングポイントとなった年です。その動きに合わせるかのように、弊社のお客様から新人若手育成に関する新たな悩みを聞くことが増えていきました。
「新入社員をうまく教えられない」「若手とのコミュニケーションの方法がわからない」「早期に退社してしまう」といった内容です。日本を代表するような企業が新人若手の育成に悩み、さまざまな手を打ってもうまく機能しないという悩みを抱えていたのです。

 
──優秀な学生を採用しているのにうまくいかない、と。

なぜこんな状況が起こっているのか? おかしいなと思いました。これだけ優秀な学生を採用しているのにうまくいかないのは、もしかすると組織側に問題があるのではないか?と仮説が芽生え、当時のお客様たちと分析していきました。
そこで見えてきたのは、新しい感性や価値観を持ち、次の世代に向かう生き方や在り方を身に付けている新入社員たちの姿です。一方、受け入れる側の組織には、「若手は、まず上に従うべきである」や「上が下を教える」など、上下関係の価値観をもとにした考え方が根強く残っていました。

引用:リクルートマネジメントソリューションズ

引用:リクルートマネジメントソリューションズ

 
結果、すれ違いが生じ、育成がうまくいっていなかった。新しく受け入れた若者を会社に染めるという発想だけではなく、新しい時代環境に適応しようと変化している彼らをうまく生かす方向に組織をアップデートしていく必要もあったのです。
そこから約10年かかりましたが、2015年前後には多くの企業に若者世代を活かしていく育成プログラムが広がり、新人若手を取り巻く状況は大きく変化しました。

 
──働きやすい、成長しやすい方向に変化したのでしょうか?

以前と比べれば、「若者は未熟だから一律に教育する」「(個性を生かすよりも)組織の色に染める」といった新入社員や若手社員の価値観を押さえつけるような育成は減りました。違いを受け止め、伸ばしていこうとする考えが多くの企業に広がっています。それは、新しい感性や価値観を持った若者にとって非常に働きやすい環境になってきたと思います。ただ、ジェネレーションギャップは変わらずあるものなので、今も新入社員や若手社員からすると、上司や先輩、会社に対して違和感を覚える部分はあるでしょう。
ただ、そのときの相手側の対応が00年代とは違います。

 

変化が大きく正解の見えないビジネス環境で、企業が求める人材とは?

 
──働く環境が変化するなか、企業は新入社員や若手社員にどのような仕事への取り組み方を望んでいるのでしょうか?

大きく分けて3つのポイントがあります。
1つ目はビジネス環境の変化です。
近年、「教育体系の見直し」や「働き方改革」を進める企業が増えています。こうした取り組みがなぜ必要なのかというと、これは近年のビジネスを取り巻く環境が、「VUCA/ブーカ」(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性の略で、取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難な状態を指す)と呼ばれる状態になっているからです。
「VUCA/ブーカ」はひと言でいえば、変化が大きく正解の見えない環境。正解や決まりきった方法が通用しない仕事が増えています。そこに一連のコロナ禍が加わり、ますます複雑で曖昧な状況が続いています。

 
──このような環境は今後も続くと思うのですが、どのような人材が企業から求められているのでしょうか?

一言でいうと、自分で考え何かを生み出していける人材です。

 
──なかなかハードルが高そうです。

たしかに、これは与えられた課題を解決していく学校教育で求められる優秀さとは大きく質の異なる力かもしれません。しかし、自ら事を起こし、育み、成果につなげていくこと。一人ひとりが立場や経験に関係なく自ら考え、コラボレーションしながら成果を出していくこと。正解のないなかで工夫しながら歩める人が求められているのは間違いありません。

そして、2つ目のポイントは職場の変化です。
これまでの日本企業のOJTでは、新入社員をマンツーマンで育成するのが伝統的なやり方でした。しかし、今は生産性を向上させるため、働く人すべてがより短い時間で同じアウトプットを出すことを求められています。
つまり、職場にいる先輩や上司にも余裕がなくなっています。かといって新人を育てる気持ちや仕組みがないかといえば、そんなことはありません。ただ手取り足取り時間をかけて教える余力がないので、新入社員や若手社員には、受け身の姿勢ではなく、自発的に動くことへの期待が高まっています。
職場にいる先輩や上司もマンツーマンでサポートする余裕がないものの、新入社員や若手社員が抱く疑問や課題については「自分から聞きに来て」「言われたら、しっかり対応するよ」というスタンスであることが大半です。これが2つ目のポイントです。

 
──3つ目のポイントはどういったことでしょうか?

多様な人と協働できることです。学校には自分と近い属性の人たちが集まっています。しかし、会社に入ると、年齢、国籍、物事の考え方、価値観、趣味嗜好が異なる多様な人たちと仕事をしていくことになります。
性格の合う人ばかりではありません。生まれ育った時代や環境の違いから、すぐには理解したり納得できないことを言われることもあるでしょう。そこでいかに協働していけるか。これが3つ目のポイントです。
このようにビジネス環境は大きく変化している一方で、学校で学ぶ内容は以前から大きく変わっていないと思います。以前は企業も学校と近いピラミッド組織で、与えられた課題について先輩に教えてもらいながら階段を上がっていく仕組みがありました。
つまり、学校に似た環境だったので学生時代優秀だった人が、同様に企業でも活躍する可能性が高いという方程式が成り立っていたわけです。ところが、今は社会に出た途端、企業からは違うやり方を求められます。新入社員や若手社員側からすると学校で求められる力と大きく違うため、最初は大きな戸惑いを感じるかもしれません。「もっと先に知りたかった」という声も当然だと思います。

 

最初の1年でVUCAな時代に慣れるため必要なのは「トライして、学ぶ」の繰り返し

 
現場でアンケートを取ってみると、新入社員や若手社員がたった1つの失敗で想像以上に落ち込んでいる様子がうかがえます。例えば、『入社後1年の壁、どんなものがありましたか?』という質問への答えの1位は、「想定以上にできなくて自信喪失」なのです。
一方、上司世代からすると失敗経験から学ぶことが普通の時代で育っているので、「1年目だから、できないのは当たり前」となります。ところが、本人たちはいきなりVUCAなビジネス環境に入っていき、あまり失敗経験をしたことがない人が増えているので、失敗をすると、大きなショックを受けるわけです。ただ、長い目で見れば躓いた経験を糧にした人のほうが変化に対応できる人材になっていきます。ですから、若い人にメッセージとして伝えたいのは「学生時代に正解のないテーマで試行錯誤しながら経験から学ぶ機会を積んでいきましょう」ということです。

 
──アルバイト、部活、ボランティア活動などでしょうか?

もちろん勉強も頑張るべきだとは思うのですが、それ以外にも重要な経験を積むチャンスは多々あります。アルバイトやボランティアにしても、未経験の場に飛び込み、うまくいったとき、いかなかったとき、自分がどういう感覚になるかを1つ1つ味わうのは価値あることです。
また、正解のないテーマはすぐに結果は出ないけど、試行錯誤する中で必ず前に進んでいくという経験は大きな財産になります。学校のペーパーテストのように正解がある課題に向き合うだけでなく、どうすればよいだろうか?相手が求めているものはどのようなものかな?とイチから自分で考える経験を積むことは社会に出てから役立つはずです。

 
──新入社員として働き始める際、どんな意識を持って仕事に取り組んでいくといいのでしょうか?

図のような「Try & Learn」を意識的に回すことが大切です。

引用:リクルートマネジメントソリューションズ
*「(1)Focus:目的・相手の期待を具体化する→(2)Action:自分なりに試行錯誤し、考えを深めていく→(3)Reflection:失敗・成功経験から内省し、次に活かすといったサイクルを繰り返すことで、自身の成長と仕事の成果につながる」

正解のない仕事に取り組むとき、じつは依頼者もどういう方法で進めば成果が出るかわかっていないケースもめずらしくありません。目的や目指したい成果は見えているけれど、方法は手探り。今のビジネス環境では、そんな状況が新入社員や若手社員の前にも当たり前にやってきます。
そこで重要なのは、最初から正解探しをするのではなく、動いてみて、学ぶことです。試行錯誤しながら、「このやり方はうまくいかなかった」「この捉え方をしたら少し前進した」と学びを積み重ねていきましょう。つまり、1つ1つの仕事を通じて「経験学習」を重ねていくのが、「Try & Learn」のサイクルです。

 
──とにかく頑張れという時代ではなくなったのですね。

マニュアルがあって、そのとおり進めれば成果が出るような状況では、本人がこれまでのやり方をなぞっていけば、それがすぐにリターンに直結しました。ですから、今も「とにかく若手は上の指示に従って動いてよ」という感覚でいる上司や先輩もいるはずです。
でも、正解のない環境では指示通りに動いてみても成果が出ない場面が増えています。そこで、新人が「自分は思っていた以上にできない」と自信を失うのはもったいない話です。
大事なのは試してみて、学び、次に活かすこと。そして、周囲はそんな若手の試行錯誤に対して、「いや、それでいいんだ」「全然問題ないよ。うまくいかないのが当たり前だから」と見守り、「この経験で何を学んだ?」「次はどうする?」と問いかけることです。
闇雲に頑張るのではなく、「Try & Learn」を意識しながら仕事をしていく。すると、目的の方向に徐々に近づいていきます。その経験が「ああ、1回うまくいかなくても、工夫したり、試行錯誤したりして改良し、続けていけばいいんだ」という実感となり、本人の成長につながるわけです。

 
──この「Try&Learn」のサイクルをどのくらいの期間で身につけていったらいいのでしょうか?

1年くらいかけて経験を重ねていきましょう。今のビジネス環境は難易度がとても上がっていて、上司や先輩たちも簡単にはいかない時代です。ですから今すぐ結果が出ないのは当たり前で、その中でいかに経験からの学びを増やしていけるかが肝心です。できない場合はやる気や能力がないのではなくて、この環境での経験値がまだ十分ではないからです。「Try&Learn」を続けていけば、確実にできるようになります。ですから、焦る必要もありません。

後編に続きます。
自分のスタイルを作り、学びのコミュニティを広げていく〜オンライン時代に適した仕事の学び方とは?〜【リクルート桑原正義さんインタビュー:後編】

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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