スキルを磨く

2021/02/24

「『自分で調べる技術』の習得は、自分らしく生きることに直結します」。そう話すのが、『実践 自分で調べる技術』の著者・上田昌文さんです。

同書では自分で調べることの意義とともに、インターネットや文献資料、自身での測定、フィールドワークを駆使して自ら調査・リサーチする方法を体系的に紹介。学術研究者のみならず、一般の人が自分の頭で考えながら、これからの時代を生きるための“ハンドブック”的な1冊に仕上がっています。

同書のエッセンスとともに、“自分らしい人生を手に入れる”とはどういうことかを、上田さんに聞きました。

 

取材協力:
NPO法人市民科学研究室
代表理事 上田 昌文さん

大学では生物学を専攻。1992年から科学技術関連の社会問題を学習し調査する、市民による活動を開始。2005~07年に東京大学「科学技術インタープリター養成プログラム」特任教員。2014~16年に科学技術振興機構(JST)サイエンスアゴラ助言グループメンバー。市民科学研究室は 2017年度「科学技術社会論・柿内賢信記念賞 特別賞」を受賞。各地での講演や大学でのゲスト講義や雑誌連載の執筆など多数。最近の論文に「新たな公害の世紀―電磁波の人体影響と社会の変容を中心に」(岩波書店『世界』2021年3月号)。クラシック音楽と古本屋めぐりと子どもと遊ぶことが大好き。

書籍紹介:
実践 自分で調べる技術(岩波新書)
著者:宮内泰介 上田昌文
調査の設計から、文献・資料の扱い方、聞き取りの方法、データの整理、発表や執筆まで、練習問題を交えながら、調査を意義あるものにする手順とコツを詳しく解説している。学生の論文執筆や小中高の探求学習にも活用できる入門書。

 

ネットの進化に合わせ、ロングセラーをアップデート

 
──2020年10月に刊行されたご著書『実践 自分で調べる技術』では、インターネットや図書館を利用した文献・統計の調査・リサーチから、現場に足を運ぶフィールドワーク、測定、そしてデータの整理・活用術まで、さまざまな「自分で調べる技術」が紹介されています。同書を刊行した経緯を教えてください。

もともとは私の友人で北海道大学大学院の教授をされている宮内泰介さんの『自分で調べる技術―市民のための調査入門』という本が2004年に出版されていて、それがロングセラーとなっていました。そして、私が市民科学研究室というNPOでいろいろな計測やデータの読み取りをしていることもあって、今から3年ほど前に宮内さんから「本の内容がちょっと古くなっているので、アップデート版を一緒に書きませんか」とご提案いただいたのです。

そこから2人でミーティングを重ね、互いに原稿を書いたり見せ合ったりしながら、約3年かけて同書を完成させました。

 
──特にどのようなところをアップデートされましたか。

やはり大きかったのが、ここ10数年でインターネット環境がかなり変わったことです。それに合わせ、新しい検索方法なりデータの参照方法なりを、大きくアップデートしました。たとえば自動翻訳に関して。今は大半の人がGoogle翻訳を使っていると思いますが、国立情報通信研究機構が開発したものをはじめ、ここ1〜2年でとんでもなく精度の高い自動翻訳ツールが出てきています。

Google Scholar(グーグル・スカラー)という学術資料を検索できるサービスでも、最近はクリックすると関連書誌情報が一覧表示される機能が追加されています。そのような「実はこんな使い方もできるのですよ」「それは便利だね!」といった私と宮内さんのやりとりが、いろいろと反映されています。

それともう1つ、生活環境におけるリスクの調査方法を紹介した章が加わったのも大きなアップデートです。

 
──そもそも「自分で調べる」ことの意義とは、何でしょう?

それを考えるには、逆に「自分で調べないとどうなるか」を考えるとわかりやすいでしょう。たとえば今はインターネットのおかげで、昔より情報量が格段に増えています。それにより、本来は自分で考えるべきことがらでも、ネットに載っている意見で代用できてしまう。したがってネットサーフィンが、考えることの代替になってしまいかねない。要は「自分の頭で考えない」ということですね。

 
──「自分の頭で考えないこと」にはどんな問題がありますか。

いきなり大きな話になりますが、1つは民主主義の根幹が揺らぐことです。民主的な国家では政治家を選ぶのにしても、何か新しいことを決めるのにしても、国民が感情だけでなく理屈やデータも元にして「こうしていくべきじゃないか」と判断することが全てのベースになります。したがって自分の頭で考えなくなるというのは、それができなくなる、つまりは政治のイニシアチブを手放すことにほかなりません。

もう1つは、自分の頭で考えないと、「自分らしい生き方」ができないことです。

 

情報の「裏を取る」技術が現代人には必須

 
──どういうことでしょう?

たとえば仕事に就いた時に、ただ上司に言われたことだけを機械的にやるだけでは、どれだけ儲かろうが、真のやりがいは生まれないでしょう。上司に言われたことは満たしつつも、どうすれば一層成果が上がるかや、有意義かを自分の頭で考え、調べ、実行することで、やりがいは生まれるものだと思います。

同じように人生も、人が提供する判断基準に沿って生きるだけでは、しょせん借り物の人生にすぎません。自分の頭で考え、行動していくことでこそ、生きがいや自分らしい生き方が生まれます。

 
──自分で調べて動くことで、主体的に生きられる。それが生きがいや自分らしい人生に繋がると?

まさにそういうことですね。それこそが「自分で調べること」の一番の意義だと思います。

 
──とはいえ、現代でインターネットを全く使わないというのは考えられません。いわゆるネット情報とはどう接していけばいいでしょうか。

今や、何かを調べる際にインターネットの比重が一番大きくなっていることは、否定し難い事実です。とはいえネット上には、信用するのに値しない情報が数多く混ざっていることも事実です。だからこそ、賢く使う必要があります。

そのためにぜひ習慣化していただきたいのが、「情報の元をたどること」です。ニュースでも記事でもSNSでも気になる情報があってそれを何かに活かしたい場合、「その情報は何を根拠に述べられているのか」、そして「その根拠は正しいのかどうか」を確認する習慣をつける。

たとえば「●●という駅周辺は治安が悪いので、住むのには向かない」という情報があったら、まずはその根拠となる数字や文献が併記されていないかを探す。もしなければ、「●●区 犯罪件数 駅別」などと検索してみます。そうしてたどりついた元情報をチェックし、そこから件の結論が導き出せるのかを考察する。そんな具合です。要は「裏を取る」ということですね。

裏を取ることは、インターネットに限らず全ての情報に対して必要ですが、特にネット上の情報を活用する場合は、それをしっかり意識したいところです。

 
──ではそのうえで、「自分で調べる技術」を高めていくには、どんなことをするのがいいでしょう?

「その分野において信頼性の高いメディア」を、定期チェックすることです。

まずは環境なり食なり介護医療なりなんでもいいのですが、自分が興味・関心あるいは問題意識を持つ分野において、有用で信用のおける媒体をピックアップします。そして、それがネットなら毎朝30分間チェックするとか、雑誌なら1年間定期購読してみるとか、さまざまな方法で、その分野の情報を蓄積していきます。特に気になる情報はブックマークや切り抜きをしたり、エバーノートなどのツールで保存したりするのがいいでしょう。

 

フィールドワークが日常の景色を大きく変える

その際に意外にも重宝するのが、英語圏のネット媒体です。たとえば外国の省庁やNPO、大学などが運営するサイトですね。そうしたところの情報は、日本のそこそこのサイトよりも情報の量や質が遥かに充実していることもあります。英語が読みづらければ、それこそ自動翻訳を使い、ページそのものを日本語に置き換えれば普通に読めてしまいます。

 
──なぜ定期チェックが重要なのでしょう?

いざ何かを調べようと思っても、その分野に関する基礎知識がある程度なければ、どこを調べればいいかも、誰に聞けばいいかも、そもそも何がどこまで明らかになっているのか、いないのかもわかりません。だからこそ日常から情報の土台を作っておくことで、いざ具体的に何かを調べたい時、何かで困った時に、的を絞って調査を行えます。また情報の蓄積があることで、ある時、爆発的な成果を生むこともあります(※この話題は後編で紹介します)。

それともう1つぜひ習慣づけていただきたいのが、実際に現場におもむいて情報を得る「フィールドワーク」を行うことです。

 
──文献やネットを調べることに対し、フィールドワークにはどんな意義がありますか。

ネットや文献から得られる情報は、あくまでも誰かの視点を通し、媒体に合あわせて切り取られた「対象のごく一部の情報」でしかありません。

たとえば今問題になっている住宅街の道路陥没事故についてであれば、ネットでも「トンネル掘削工事の振動が原因」や「特殊な地盤も要因に」といった情報は得られます。対して実際に現場で聞き込みや観察を行うと、「以前から住民と開発会社の間では、こんなやりとりがあった」といった情報や、事故現場のすさまじさ、現場周辺の空気感、さらにはその影響がどれほどの範囲に及んでいるかといった、ネットでは掴みづらい情報を得られます。

要はフィールドワークに出ると、ネットでは得られない雑多で立体的な情報が得られ、五感を通しての「感触」として対象を捉えられるのです。また、関わる人たちの顔=人物像や感情といった面もつかめます。したがってフィールドワークをすると、思いもよらない情報に出くわすだけでなく、自分の認識が大きく覆されることが少なくありません。加えてフィールドワークは、フィールドワークから戻った後の景色も変えます。

 
──戻った後の景色とは?

フィールドワークにより、現場で雑多な情報がうごめいていることを感覚的につかむと、ネットや文献で他の情報に接した時に「そんなふうに言い切れるものかな?」「それ以外にも複合的な要因があるのでは?」などと批判的な目で見られるようになる。要は情報を精査する目が養われるのです。

ひとくちにフィールドワークといっても、歩くこと、人に聞くこと、その場を観察すること、実際に体験してみることなど、いろいろな手法があります。いずれにせよ現場に足を運ぶことは、「自分で調べる」際の重要なアプローチになり得るというのを、ぜひ頭に入れていただければと思います。

後編では、より一歩踏み込んだ「自分で調べる技術」を紹介していきます。

一歩先行く調査・リサーチの方法を知る【自分で調べる技術:後編】

※本記事は取材により得た情報を基に構成・執筆されたものであり、運営元の意見を代表するものではありません。
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SCIENCE SHIFT編集部

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