医療業界 業界マップ
団塊の世代の高齢化、医療費の膨張、最先端医療への対応と、いま医療業界にはさまざまな課題が山積し、そしてその解決のためにさまざまな施策とこの業界に関わる人々の課題解決力が求められています。医療業界にはその中心となる病院や診療所などの医療機関とともに、それを支える医薬品メーカー、医療機器メーカー、介護事業者などが存在します。団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて「地域包括ケアシステム」の構築が急がれると、そこには人材不足を解消するための医療人材紹介サービス、予防医療の観点から患者の健康情報を調査、蓄積、連携させるためのITベンチャーなども、今後関与の度合いを増してきます。ここでは、医療業界に関わるプレーヤーの代表である医療機関(病院・診療所・薬局)、製薬業界、医療機器業界を中心に、それぞれの役割と関係性を見ていくことにしましょう。
医療業界:業界プレイヤー
医療機関(病院・診療所・薬局)
医師や看護師、薬剤師などが、直接患者に対して治療やリハビリ、カウンセリングを行う業種。この医療機関に求められる役割も、これまでの「医術で病気を治す」ということから変わりつつあります。日本は国民の約4人に1人が高齢者という、“超高齢社会”に突入しています。人は一人当たり生まれてから死ぬまでに約3,000万円程度の医療費を要するとされ、その半分以上は70歳を超えてから使うといわれています。しかし出生率がほぼ横ばいで推移しているのに対し平均寿命は伸び続けています。つまり高齢化社会が深刻になればなるほど、今後ますます医療財源は圧迫され、生産年齢人口が強いられる負担は増す見込みです。こうした現状を解決するために病院中心の医療から住まい中心の医療へシフトすべきという「地域包括ケアシステム構築」を進めていくことが求められているように、医療機関は地域に活動の主軸を置く時代になると考えられます。それに伴い、訪問介護や診療をする地域の医院やクリニックが増加し、予防医療などの治療以外の分野における働きが期待されるようになります。反面そこには医師不足、看護師への高度な知識と技術、専門性が課題となっており、その人材確保のために医療人材の紹介サービス[図中:A]などが新たなプレーヤーとしてその活躍を求められつつあります。
また、医療業界にはSMO(Site Management Organization:治験施設支援機関の略)[図中:B]と呼ばれる医療施設での臨床試験や治験業務を担う企業もプレーヤーとして存在します。臨床検査とは、心電図測定や血圧測定などの「生理機能検査」と血液や尿などを採取して検査する「検体検査」に分かれます。対して治験は、医薬品や医療機器の製造販売に関する薬事法上の承認のために行われる検査であり、医療機関からその業務を委託されています。
医薬品業界
医薬品業界[図中:C]は、投与に医師の処方が必要な「医療用医薬品」と薬局やドラッグストアで購入できる「一般用医薬品」に大別され、市場規模としてはその9割超を「医療用医薬品」が占めます。さらに医療用医薬品のなかでも先発医薬品(新薬)と後発医薬品(ジェネリック医薬品)に分類されます。日本ジェネリック製薬協会によるとジェネリック医薬品の数量シェア分析結果は79.5%(※1)。今後の医療費の高騰を抑えるために、政府は現在、「後発医薬品の数量シェアを、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上とする目標」(経済財政運営と改革の基本方針2021)を掲げており、ジェネリック医薬品のシェアが拡大していくことが予想されています。
また医薬品業界には製薬サービス業と言われる製薬企業等が行う臨床試験を代行するCRO(Contract Research Organization:開発業務受託機関の略)[図中:D]が存在し、薬の開発におけるモニタリングや、データマネジメント、統計解析などの業務を行います。薬の研究開発費用の確保が難しくなってきた各製薬メーカーの固定費削減を背景に、最近では爆発的な勢いで発展している業界です。
さらに医薬品企業の販売を代行するCSO(Contract Sales Organization:販売業務受託の略)[図中:E]も台頭してきており、派遣MRビジネスやレンタルMRビジネスとも呼ばれています。
※1:日本ジェネリック製薬協会「令和3年度(令和 3年4月~令和4年3月)のジェネリック医薬品数量シェア分析結果」
医療機器・医療用品業界
医療機器業界[図中:F]は大きく二つに分類されます。病気やケガの治療に使用されるペースメーカー、人工関節などの「治療系医療機器」。CTやMRI、超音波画像診断装置や内視鏡などの治療を行う前に診断や測定を行う「診断系医療機器」です。経済産業省によると市場規模は2015年度で約2.7兆円(※2)。特別大きな市場ではありませんが、常に安定した成長が見込める業界です。
また、ガーゼやカテーテル、注射器や人工透析用品などの消耗品を製造している医療用品業界も存在しています。高齢化や生活習慣病の増加、また院内感染や医療事故防止のために安定した需要がありますが、最近では外資系メーカーとの競争が激しく、新興国を中心に海外における事業基盤の強化が進んでいます。
※2:経済産業省/我が国医療機器産業の現状より
デジタル医療の発展もめざましく、2020年代からは治療用アプリの開発が本格的に進められています。治療用アプリとは、健康維持ではなく、病気治療を目的としたアプリケーションです。自身のスマートフォンやタブレットにダウンロードし、日常生活の中で病気を治療するために使用するものとされています。治療用アプリはヘルスケアアプリとは異なり、薬事承認を受けた医療機器に該当します。 糖尿病や高血圧などの生活習慣病や精神疾患系の病気を治療するものをはじめ、薬物治療をしているがん患者の治療を支援するものなど、さまざまなアプリが提供、開発中となっています。
今後、生まれてくる新規事業
超高齢化社会を目前に控え注目される医療業界。医療費増大など社会的な課題もあり、そのソリューションとしての新規事業も期待されています。
例えば、予防医療の分野では、毎日の生活の中で生体データを取得できるものも着目され、生体センシングができるウェアラブルデバイスなども増えてきています。時計型や耳に装着する生体計測デバイスなどが出てきていますが、今後は、歯を磨きながら鏡を見ている間や入浴中に、体重や生態データを計測されているなど、人間が意識をすることなく健康情報を測定できるようなデバイスの誕生も予測されています。
実際に海外では、同じ病気の人たちをつないでアドバイスを共有するサービスや、医師同士で専門知識を共有できるようなサービス、最近目立つものとしてゲノムや腸内細菌の検査サービスなどがあります。デジタル技術の進歩によってこうした領域も可能性が広がっています。それらの集積した情報からAIによる支援で、将来予想される病気を指摘し、そうならないために人に生活習慣の改善を呼びかけるようなサービスも、今後生まれてくるかもしれません。
また、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)に関する国の取り組みに注目しましょう。PHRとは、個人の医療・介護・健康データのことです。クラウドサービスやスマートフォンの普及とあいまって、本人の同意の下でさまざまなサービスに活用することが可能になってきています。
キャプション:PHR全体像
PHRアプリによって、個人の医療・介護・健康に関する情報を自分自身で生涯にわたり時系列的に管理・活用することが可能になります。自分自身の健康状態に合った優良なサービスの提供を受けることを目的としています。
民間 PHRサービス利用者へのアンケート調査結果等(令和2年実施:厚生労働省)では、PHR現利用率は、高いもので14%程度(スクリーニング前の母集団を対象とした概算)、現利用者の利用しているアプリは、「お薬手帳」・「コロナ」・「フィットネス」が多く、また、66.7%がPHRという名称について「全く知らない」と回答していました。日本での普及はまだまだといえそうです。
医療業界は、今後ますますニーズが拡大することが予測され、大きな可能性を秘めた業界です。反面、専門性が高く網羅する範囲も広く決して楽な仕事ではありません。しかし、この業界に魅力とやりがいを感じるなら、業界動向や最新の情報を集め、広い視野を持ってこの業界を見続けてみてください。冒頭にも言いましたが、医療業界の関係性は、医療施設や医療従事者、患者の間だけにはとどまりません。医薬品メーカーや医療機器メーカー、介護事業者や新規事業者。それら医療業界周辺のプレイヤーもお互いに影響を与え合うことで、医療業界の課題を解決できるのです。
医療業界の職業・職種
医療業界を支えるさまざまな職業・職種をご紹介します。職業の詳細については、下記のページで解説をしていますので、そちらもぜひ参考にしてみてください。(記事公開:2019年3月、更新:2021年7月)
【1】病院
(1) 病人やケガ人、妊婦に対し医師とともに治療を担当
看護師、助産師、保健師、歯科衛生士、救急救命士
(2) 患者に医薬品を提供する
薬剤師
(3) カウンセリング、相談などで患者と向き合う
社会福祉士、精神保健福祉士
(4) リハビリテーション等で患者の機能回復に努める
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士
(5) 医療に使用する機器の操作、検査、保守点検を行う
臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士
(6) 患者が治療、機能回復のため使用する装具を製作する
義肢装具士、歯科技工士
(7) 患者の健全な食生活を支える
管理栄養士
【2】介護福祉
(1) 利用者に対して実際に介護を行う
介護福祉士、ホームヘルパー、ケアワーカー、ソーシャルワーカー、ケアスタッフ、介護職員、介助員
(2) 利用者と施設、病院などの間に立ちケアプランを策定する
ケアマネージャー
(3) 利用者や家族の相談を受け施設、病院と調整を図る
生活相談員
【3】製薬業界
(1) 医薬品の研究・開発・製造に関わる仕事
研究、開発、生産
(2) 医療機関への営業、アフターフォロー
マーケティング、MR、PMS
医療業界の現状・将来性・課題
医療業界の現状や将来性、課題についてご紹介します。こちらも下記のページで解説をしていますので、そちらもぜひ参考にしてみてください。(記事公開:2019年3月、更新:2021年7月)
医療業界・医療機器業界、徹底研究
https://www.scienceshift.jp/blog/medical-industry-research医療業界の市場規模と将来性
国内ヘルスケアの市場規模は、2013年で16兆円、それが2030年には37兆円にまで拡大するとされています。(「日本再興戦略」2016年度改定による)医療機器、製薬ともに安定した増加がみられます。
医療業界の課題
実は医療業界そのものではなく、業界の根底にある「医療制度」が今後、大きな問題に直面しています。医療や介護にかかる費用は年々増加しており、この医療費の増大に伴い、GDPや国の歳入に占める医療費の割合が高くなっています。
2025年問題、2040年問題
いわゆる少子高齢化、人口動態がこれまでと違うかたちになります。- 2025年問題……国民の3人に1人が高齢者に
- 2040年問題……1.5人の現役世代が1人の高齢世代を支えるように
また、今後の医療がどう進化していくのかを研究者にインタビューした記事もご紹介します。驚きの内容をご覧ください。
▼これから、医療や薬の未来はどうなりますか?|シリーズ製薬業界・医療業界を変える⼈たちに会ってくる|奥真也先⽣
医療業界のトレンド
業界トレンド、動向についても触れておきましょう。こちらも下記のページで解説をしていますので、そちらもぜひ参考にしてみてください。(記事公開:2019年3月)
医療業界 業界トレンド
https://www.scienceshift.jp/blog/medical_trend地域包括ケアシステム
高齢化、人口動態の変化、医療の進化など、さまざまな事情により、医療のかたちも変わろうとしています。そのひとつの現れが、政府が推し進めている「地域包括ケアシステム」です。病院だけを医療の起点にするのでなく、在宅での医療や地域の連携などを進め、安心な医療を目指そうとする取り組みが各地で行われています。
ビッグデータを活用したデータヘルス事業
データヘルス事業とは保険者が保有するレセプト(診療報酬明細書)や特定検診・特定保健指導などの情報を活用し、加入者の健康づくりや疾病予防、重症化予防につなげるものです。データヘルス事業の特長としては、「データの利活用により、保健事業の効果が高い対象者を抽出し、その対象者および他の加入者に全般的・個別的な情報提供を実施、費用対効果を追求した保健事業を実施する」ことなどが挙げられています。これにより、効果的・効率的な健康状態の把握と指導実施が可能となり、また個別の情報提供等により、国民一人ひとりの健康に対する理解と、予防や非重症化などに対する自発的な行動への効果が期待されています。
医療DXの推進
政府は2022年6月「骨太方針2022」を閣議決定しました。医療DX分野においては、政府に「医療DX推進本部(仮称)」を設置し、「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」、「診療報酬改定に関するDX」を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずると発表しました。
また、医療DXが実現すれば、下記のようなメリットが生まれます。
- 病院の業務効率化
- 遠隔診療・非対面診療の実用化
- 医療情報ネットワークの構築
- クラウド化によるBCP強化
- 予防医療サービスの普及
- 予約・受付の自動化