未来を考える

2019/02/28

就職活動の中でよく聞かれ、学生を悩ませる代表的な質問の「挫折体験を教えてください」。この質問に学生はどう向き合い、なにを意識して取り組むべきなのか、『「就活」と日本社会』、『「意識高い系」という病』、『僕たちはガンダムのジムである』など、就活に関する著書を多数執筆するとともに、「働き方」をテーマに鋭い視点と直球の回答で、現代社会における働き方についてメッセージを発信し続ける常見陽平氏に伺いました。

挫折を振り返っているか?

「君はその挫折をまだ総括できていない。次の面接までにもっと深く振り返ってきなさい!」

これは日本を代表する大手化学メーカーの二次面接での一コマであり、同志社大学の女子学生が人事課長から言われた言葉です。

大学時代の挫折体験について質問され、彼女は自分がマネジャーをしていた運動部の戦績が振るわず関西学生リーグの入れ替えの対象となってしまい、降格してしまったことを挫折体験としてあげました。しかし、挫折体験に対し、振り返りが足りないとたしなめられたのです。

第三者の視点でこのエピソードを聞くと、まるで「ツンデレ」話のようにも聞こえます。「次の面接までにもっと深く振り返ってきなさい!」ということは次の選考には行けると解釈できるからで、叱った相手に助け舟を出すのは上司が部下を手懐けるための常套手段です。

ただ、この投げかけは女子学生にとって実に好印象だったそうで、進路を選ぶ決め手の一つになったそうです。何より、この人事課長の言葉がきっかけとなり、当時のチームの雰囲気や、自分のことを改めて振り返り次の面接で答えたそうです。その後の選考も進み、見事に内定。この人事課長の一言は、就活の良い思い出となったとのことでした。

「あなたの挫折体験を教えてください」。就活でのよくある質問です。

何をどこまで答えていいのかわからない人もいることでしょう。

中には「挫折をしたことがない」ということが悩みという人もいるかもしれません。

この質問とあなたはどう向き合うべきか? それをこれから考えてみましょう。

 

企業はなぜ、挫折質問をするのか?

まずここで、企業が面接で挫折体験について聞く意図を考えてみましょう。

簡単に結論を言うと、この質問はその人物を短時間で深く理解することができる、実に効果的な質問だからです。

前提として企業が面接で知りたいのは、その学生が「入社後、伸びそうか」「仕事が出来そうか」「自社の社風と合いそうか」というこの3点です。選考ではその人の価値観、思考回路、行動特性などを確認します。

挫折体験に関する質問は、何かにチャレンジして、失敗して、それをどう乗り越えたのかを手っ取り早く把握する上でとても有効なのです。なぜなら、挫折を乗り越えることは、企業で求められるPDCAサイクルを回すこと、そのものだからです。

そもそも最近の学生は、学業・アルバイトなどで毎日が忙しすぎるということもありますが、何かにチャレンジしたことのない学生が散見されます。挫折体験に関する質問は、チャレンジした経験があるかどうかを把握する上でも便利です。

次に挫折に関する質問は、打たれ強さを把握する上でも有効です。いわゆる、圧迫面接では打たれ強さやストレス耐性を必ずしも確認することはできません。反射神経が良い人、かわすのが上手い人ほど的確に答えてしまいます。本来、人は何らかの挫折を味わい、それを乗り越えることにこそ、強さを身に着けるからです。

このように企業にとって挫折質問は学生を判断する上で有効なのだと分かったうえで、学生はこの定番質問に対して対策をしておくべきです。もし聞かれなかったとしても、「挫折とそこからの逆転にこそ、その人らしさ、強さが現れる」ため、挫折について振り返ることは有益なのです。

 

「リア充」「キラキラ学生」も実は挫折している

「挫折体験のヒント」として、少しだけ自分語りをさせていただきます。私は大学時代の話をするのが大好きで、今も講義や講演で自分の学生時代について触れることがあります。学生プロレスサークルで会長を務め、学園祭を盛り上げたこと。会報誌としてフリーペーパーを立ち上げて学内での圧倒的な人気雑誌に育てたこと。「名門」と呼ばれるゼミで1週間に7日間勉強に没頭した日々。アメリカ旅行。1日3本映画を見た日々など、楽しい話はいくらでもあります。この数行を書いているだけでも、学生時代を思い出してほくそ笑むほどです。

他人にこの手の話をすると「リア充だったのですね」「さすが活躍している方は充実した大学生活をおくっていますね」などとよく言われます。ただ、私にももちろん、挫折体験も数多くあります。

学生プロレスを実演するサークルに入っていたことは前述しました。このサークルでの取り組みは、就活でも「鉄板」のアピールポイントでしたが、他のサークルとトラブルになったり、学園祭で実施した本物のプロレスラーの講演会が大赤字になったり…と、失敗体験は山ほどあります。

学生の皆さんも挫折経験を問われると、まずこうした失敗経験を思い浮かべると思います。

でもここで注意が必要なのが、「挫折体験とは、失敗体験だけではない。」ということです。

 

違和感やギャップも挫折体験

挫折とは失敗ばかりでなく、学生生活で感じた違和感やギャップも挫折経験です。

少し分かりにくいと思うので例を示します。

例えば、私の卒業した一橋大学。私にとっては第一志望の大学でしたが、入学してみると周りに不本意入学の人が多く、まるで自分の志が低いかのように思えてしまいました。同級生と自分を比べても、一見すると遊んでいる風で講義をよくサボる同級生が、意外にも切れ者で政治や経済にも精通しており、圧倒されることもありました。こうした環境の中で私は常に、周囲との違和感を覚えながら学生生活を送っていました。

こんな例もあります。

私にとって大学進学は、言ってみれば憧れの花の都「東京」に行くための口実でもありました。東京に行くと何かが変わると思っていました。確かに東京での一人暮らしはそれだけで楽しかったのですが、同時に都会の孤独のようなものも常に感じていました。

また、私が大学に出るとほぼ同時に、同居していた祖母は病気で衰えていきました。孫が近くにいないことで、人生に張り合いがなくなったのではないかと思い、帰省するたびに祖母の衰える様子を変えられない自分に虚しさと無力感を感じていました。

3年生になって始まる必修のゼミでは、名門と呼ばれる人気ゼミに入ることができましたが、同級生の優秀さと熱意、個性に圧倒されました。

私は学生時代に感じていた違和感やギャップ。ちょっと振り返ってみただけでも、挫折体験だらけです。このように、挫折体験は何かにチャレンジして失敗した体験だけではなく、違和感や失望も挫折となり得るのです。

自分で言うのもなんですが、他人から見るとキラキラした大学生活を送っていた私にもこんな挫折経験がいくらでもあります。

もし皆さんが挫折経験を見つけるのに苦労しているなら、このように自分の人生を深く振り返ってみてはいかがでしょうか。

 

挫折体験を面接でどう伝えるか

では、「挫折体験を教えてください」という問いに、就活生として何を意識して、具体的にどう取り組むべきかをお伝えします。

まず一番大切なのが、学生生活の振り返りです。自分にとって挫折体験とは何かを深く考えてみましょう。

この際に有効なのが、スマートフォンの写真です。あなたのスマートフォンの中にはこれまでの学生生活の写真は大量にストックされているはずです。これを一通りみて自分の学生生活を振り返ると、挫折体験をクリアに思い出すことができます。自分では忘れていたような体験や、認識していなかった体験も振り返ることができるからです。

次に挫折体験を伝える上で重要なのは、事実とストーリーです。何でつまずき、どう復活したか。そこから学んだことは何かということを一連のストーリーで語るのです。さらに、自分自身の強み・弱みに対する気付きも盛り込むと良いでしょう。

また、中には挫折したことがないという人もいることでしょう。数年前に早稲田大学の女子学生から相談のメールがきました。「挫折をしたことがない。強いて言えば、中学受験で第一志望の学校に落ちたくらいで、それほど傷ついたわけでもなかった。」と。その場合も、自分の生活を深く振り返ってみて欲しいと思います。たとえば、妥協して後悔した経験、もっと高い成果が出せたはずの経験はなかったか。中には言いたくない挫折体験もあることでしょう。家族に関すること(両親の離婚など)、いじめられた経験や人間関係のトラブルなど。別にすべてを正直に話す必要はありません。ただ、伝える、伝えないは別として自分のこれまでを振り返ってみることに意味があります。もしそこから立ち直ることができていたならば、自分の強さを示すアピールポイントになり得るからです。

 

客観的視点を持ち、さらけ出す勇気を

就活の基本ですが、挫折体験に限らず自分の体験については、友人、知人、恋人などに話してみるとよいでしょう。客観的な視点でその体験についてどう思うかなどコメントが得られますし、相手への伝え方のヒントも得られるはずです。

それでも挫折体験がない、話せるものがないという方へのアドバイスとして、「就活中の気づきをまとめる」ということがあります。たとえば、セミナーに登壇した経営者や社員に圧倒された体験、集団面接で他の人についていけず言いたいことが言えなかったような経験です。そこで自分に足りないと思った事柄を自分の成長課題としてまとめてみるのも良いでしょう。

人間は挫折を重ねて生きていきます。今年で45歳になる私も、挫折の連続です。挫折は人間の勲章です。恥ずかしがらずに、自分と向き合い、さらけ出す勇気を持ちましょう。

自分と向き合った時間の質が高いほど、そしてその量が多いほど、人生は充実したものになるはずです。

 

組織論のプロに聞いた、「働く」のいちばん大事なところ
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常見 陽平(つねみ ようへい)

北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『社畜上等!』(晶文社)『「働き方改革」の不都合な真実』(おおたとしまさ氏との共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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